イヌオ~ヒトニヤサシク~

映画、音楽、酒、そしてヒトを愛する駆け出しバーテンダーが徒然なるままに趣味と幸せを考察する。

あなたへ

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生きるのがだるいんじゃ無くて存在するのがだるくて

雨の日は憂鬱とか言ってるけど、晴れで何かが変わるわけでもなく

妥協を重ねて生きてはいるけど、そんな自分が許せなく

その癖他の妥協を重ねている人と自分を重ねてそれが自分の枕になり

大好きだった音楽も、今じゃイヤホンを耳にはめるのすら億劫で

「あのミュージシャンも売れるために妥協してんだろうか」なんてネガティブで自分を他人と比べて

そんな事考えながらビルの隙間から見上げてみた曇り空は

実は思いのほか優しくて

でも優しいものって手に届かないし

簡単に、本当に簡単に裏切られるし

自由のために不自由を味わい

見えない自由のために不自由を味わい

見えないのなら、例え手に入れたとしても気付かないか棄ててしまうだけで

世の中そんなふうに出来てんだなぁって

不幸や緊急事態があれば良くも悪くも気持ちが昂り

後の日常は死んでいる

でも生きている

生きている

君は今、なにしてるのだろうか

好きな人との5年間~心の病をもつ風俗嬢~(16)

楽しかった。あの散歩は本当に。たかが散歩なのに、忘れられない

あの時は確か打ち上げの件は敢えてお互いに何も言わなかったと思う。
でもえりかは俺を呼び出しはしたけど本当に申し訳無さそうではあったし、何よりとても楽しそうだったから俺ももうどうでも良くなっていた


四月になった。風はまだ涼しいけど陽の光は暖かく柔らかい。はじめて俺達が出会った季節がまた巡ってきた。時計の針が一周すれば鐘を打つように。


俺は例のようにえりかを食事に誘った。
えりかはいつものように気持ちよくOKしてくれた
場所はいつもの居酒屋だった

いつもの様に楽しく飲み食いしていた。食べるものもいつも通り。えりかは胸身の唐揚げが好きだった。
それをツマミにいつも通りにビールを飲む。


そう、すべていつも通り。時計の針は一周した所でいつも同じ音色の鐘を打つ。


でもえりかは、頬を赤らめていつもと違ってかしこまって口を開いた。

「ねぇイヌオ」
「ん?なに?」
「実は私からお願いが有ります」
「お願い?」
「うん」
「良いよ、言ってごらんよ」
「えへへ、あのね、実はお願いって3つあるの」
「えぇ、3つもかよ?」

いつもと違った。何かがはっきりと

「まず一つ目は、イヌオはこれからもギターを弾いて自分の目標である自分のバンドを作ってください」
「うん、もちろんだよ」
「二つ目は、どうかこれからも私の家のお皿を洗ってください」

これからも?


「そして三つ目は、私と、、、付き合って下さい」


思考が止まった。
ブレーカーが落ちた

あの時どんな顔をしてたんだろう。全く想像出来ない。多分間抜けな顔だったんだろうな
でもそんな間抜けな顔を、えりかはあの時のようにちょこんと正座をして手を膝の上に置いて、恥ずかしそうに笑いながらじっと見つめていた

言葉が詰まった俺はえりかをギュッと抱きしめようとした


けど跳ね除けられた


「もう!ここじゃダメだよ」
「ああ、あ、、、うん、ごめん」
「それで、、、どうなのかな、、、?」

迷いなんてあるはずない

「こちらこそ、これからもよろしく。えりか。」


その日はもちろんえりかの家に泊まった
俺はなんて幸せものなんだろう。こころの底からそう思った。本当にそう思った。えりかはもう俺が独り占め出来るんだ。


でも今思えば、これは長い戦いの始まりでもあったんだ。俺にとっても、そしてえりかにとっても、、、

好きな人との5年間~心の病をもつ風俗嬢~(15)

俺はゴミをかき分けてえりかの側に行った
えりかはウンウン唸ってた

「えりか?大丈夫?」
「うぅ、ごめんねイヌオ」
「誰も助けてくれなかったのかよ」
「うん、あんの野郎ども私が唸って寝てる間も普通に飲み会してやがった。ご馳走様とか言って片付けもせずに帰りやがってぇ」
「どうしようもねぇなそりゃ」

部屋は祭りの後って感じだった

「熱は?」
「今はかる、、、」

ピッ
39℃あった

「キツイね」
「うん、ごめんね呼び出して」
「いいよ、来たいから来たんだ」
「ほんと?」
「うん」
「でもインフルエンザかもしれないよ?今流行ってるじゃない」
「お前のインフルならうつされても良いよ」
「なによそれ」


取り敢えず店で買った冷えピタとポカリを渡して俺は部屋の片付けをはじめた

「いいんだよ、そこまでしなくても」
「黙って寝てな」

台所が狭いから片付けに手間取った。1時間ほどかかった。その間にえりかは眠ってしまった。その方がいい。

くたびれた俺は片付けが終わるなり一緒のベッドで眠った


起きた時には昼近かった。
ベッドがいやに広い。隣にえりかがいなかった。そしてテーブルに手紙が置いてあった


昨日は本当に有難う。病院に行ってきます。ゆっくりしててね。


ガチャン
えりかが帰ってきた。


「ただ今」

変な感じだ。女の子に「ただ今」って言われるのは

「おかえり。起こしてくれたら一緒に行ったのに」
「いいの、病気になっちゃったのは私だし」
「で?どうだった?大丈夫?」
「気管支炎って言われた。普通に養生すれば治るって」
「そっか、よかったな。そろそろ昼だしなんか食うか?」
「お雑炊が食べたいの」
「また?」
「また」


いつかの時のように俺は雑炊を作った。卵雑炊。なんの変わり種もない普通の雑炊。でも特別な雑炊。


「イヌオのお雑炊本当に美味しい」
「本当に?」
「うん、すっごく」


えりかは咳が止まらなかったが、食べ終わったあとも夜まで起きていた。眠りたく無いようだった。熱が有るのに楽しそうだった。俺もそうだった。だけど夜も遅くなり、俺達は眠りについた。同じベッドで。


好きな人を看病出来る。他の誰でもなくこの俺が。


朝になった。快晴だった。横にはちゃんとえりかもいた。

「おはよう」
「おはよう、あれ?顔色いいな」
「うん、もう元気になったよ。イヌオのお陰だよ。有難う!」

内心寂しかった。もう少し看病したかった。馬鹿なことを考える。元気になるのが一番なのに、自分の為にえりかに治って欲しくないとおもうなんて。

結局半分は自分の為なんだろうか。こ難しいことを本人を前にして思う


「ねえイヌオ。もし良かったらお散歩行こうよ。
「え?うん、いいよ」



近くの細い道を通り、バス停を抜けて大学の側の通りに出る。
桜が満開だった。満開の桜の通りを2人で歩いた。
えりかの白い肌が桜色と混ざりあって、どこか儚げだった。でも、確かに2人で同じ道を歩いている。
俺が少し早足なぶんだけえりかに合わせて歩いた

もうすぐ三月も終わる、、、。
寒い春が終わる。暖かい春が来る。
何かが終わり、新しい何かが始まる。季節も人も、同じだった。
でも今だけは、今この時間だけはどうか終わらないで、、、。ずっとそう願っていた。


「なあえりか」
振り返って見るとえりかは10mは後ろにいた。そして桜の中の俺を夢中で写真を撮っていた。

「何やってんの?」
「へへへ、別にいいじゃん」

近くで昼食を済ませて次は河原を歩く。ガードレールを下をのけ反ってすり抜けようと馬鹿もやったし、まだ冷たい水の中に足をつけたりもした。
えりかは夢中でシャッターを切る。俺は恥しくて顔を背ける。


「綺麗だね」
「サクラ?」
「うん」


こういう時、1度でもかんがえるもんだろ?「お前の方が綺麗だよ」なんて臭いこと。
でも本当にあのえりかは、本当の本当に綺麗だった。


忘れない
あの日だけは

好きな人との5年間~心の病をもつ風俗嬢~(14)

板の間で寝たけど落ち着かなかった
そりゃそうだろう。こんな事があったら頭が混乱するのが当たり前だ。寝付けるはずが無い
眠ることが出来なくなった俺はタクシーで家に帰った


皆今頃どう思ってんだろう。えりかのことを心配してるだろうか。それとも酒癖が悪いぐらいに思っているんだろうか (実際絶望的に悪かったし)

皆知らないんだ。えりかの障害や鬱病の事なんか。気にかける人間の方が少ないだろう。人間なんてそんなもんだ。他人にはそんなに興味を持っちゃいない。自分の評判やらなんやらを気にした所で意外なほど何とも思っちゃいない。


でも俺は、こんな事が起きてもえりかに対する想いは消えなかった、、、。


三月も終わりが近づいてきた。夜はまだ冷える。俺はある日深夜のコンビニでバイト中だった。
言っちゃ悪いがスタッフも威張るだけで仕事しないオッサンばっかりだったし、繁華街という事もあってお客さんも層が良くなかったし、さっさとおさらばしたかった。愛着なんか一切なかった。

俺は威張り散らすおっさんの代わりに事務所で仕事をしていた。オッサン2人はレジで談笑中だった。

ブーッブーッ

ん?こんな時間にメール?誰だ?
えりかからだった

ー 風邪ひいた ー

驚いた。えりかが風邪をひいた事にじゃない。メールが来たこともそうだし俺にヘルプを求めている事にだ。
大丈夫かと聞いた。

ー 平気。さっきまで友達と鍋食べてたんだけど急に苦しくなって寝込んだの。今皆鍋食べ終わって帰ったところ ー

平気じゃ無いだろとか、誰も助けてくれなかったのかよとかどっからツッコミ入れりゃ良いんだよと思ったけど、俺の返事は決まってた


ー 今からそっち行くよ ー


オッサンにもムカついてたし嫌いな職場だったしで嘘ついて早退するなんて何とも思わなかった。
えりかは遠慮がちだったけど最終的に来て欲しいと言ってきた。
と言うよりも来てほしいに決まってる。

俺はオッサンに嘘をつき、廃棄を持って店を出た。深夜の1:00だったと思う


夜の国道を自転車で走った。寒いはずなのに寒くなかった。胸がすごく、暖かかった。


ガチャン
アパートの鍵は開けてあった
「えりか。起きてるか?」

部屋は馬鹿みたいに散らかっていた。鍋も酒も片付けられてなかった。本当にたった今までここで飲み会があったのだ。まるで躾の出来てない大型犬でも放し飼いにしている様にグシャグシャに散らかってた

そしてそのゴミの山の中のベッドの中で、えりかが寝ていた。

好きな人との5年間~心の病をもつ風俗嬢~(13)

追いコンも終わり、1年ライブの準備が始まる

数ヶ月前まであんなに寒かったのに、いつの間にか春になっていた。陽の光も風になびくレースカーテンの様に淡く柔らかかった。


三月。春は希望の季節。ハッキリと文は憶えていないが、そんな事を言っていたあの小説。
一度えりかに渡したことがある本に書いてあった。


もう追いコンも終わって、部室は俺を含めた1年生の4人が使い放題だった。1年ライブで他校を圧倒するパフォーマンスをする。その心意気で毎日部室に来ていた。

バカでかい音を出すのは気持ちがいい。俺だけじゃなく、皆楽しかったと思う。
そしてえりかも笑顔が眩しかった。

えりかは心の病も見せず風俗をしている事も知られることなく、フツウの女子大生としてそこにいた。
えりかの秘密を知っていたのは俺だけだった


あの時間は本当に楽しかった。
部室に集合して、たまに誰かが遅刻して、一生懸命練習して、ジュースを皆で並んで飲んで、ふざけて、うどんを食べにいって、そしてまた明日になる。


あの眩しい時間は俺にもえりかにも宝物だ

そして1年ライブが始まる



ライブは大成功だった。自惚れる訳では無いけど、俺達が一番だったはずだ。
皆笑顔だった。


俺、メンバー、在校生の先輩、卒業したばかりの先輩、同じ学校の同級生、他校の皆、そしてえりか


そして打ち上げ。そう、そのためにライブをする。美味いビールを飲むためにライブってあると思う。いまでもそう思う。

100人近くが集まる打ち上げ。自分からわざわざ話しかけない俺の周りにも他校の人がわざわざ寄ってきてくれた。ギターの話だったり音楽の話だったり盛り上がった。

そしてえりかは、遠くから俺の写真を笑顔で撮っていた。何でだろう。なんでそんな照れ臭いことをわざわざするのか。みんな見ているのに。


少し飲み過ぎた。皆も俺も。そしてえりかも。皆で二次会の会場に移動する


そして事件が起きた


えりかに鬱のスイッチが入った。詳しい原因は分からないが、えりかが豹変した。鬱はなんの前触れもなく訪れる。
でもまさかこんな時にまで来るとは、、、

ずっと鋭い眼つきで地面を苦しそうに睨みつける。しゃがみながら。苦しんでいた。酷く苦しんでいた。
何が起きたか分かってる俺はえりかに寄り添った。

「えりか!大丈夫か?苦しいのか?」
「、、、」
「えりか?」
「、、、放っといて」
「え?」
「放っといて」
「そんな事出来ないよ。キツイなら送るよ。タクシーで一緒に帰ろう」
「そんな事しなくていい」
「でも、、、」
「良いからほっとけよ!!!彼氏面してんじゃねぇよ!!!」

「!?」

そう言うなりえりかは1人でタクシーに乗って帰って行った。

周りの奴らは俺を笑っていた。何アイツ?勘違い野郎なの?残念でしたってな具合だ。
俺は当然恥ずかしかったし、えりかにあんな事を言われるしで頭の中でシロアリでも湧いているみたいにモヤモヤと痛みが止まらなかった

他のメンバーは複雑な顔をしていた。そりゃそうだ。普通じゃないだろこの光景は。

「わりい、俺ちょっといってくる」

そう言い残してタクシーにのってあいつの家に向かった



アパートは鍵が開いていた。俺は勝手に入った

「えりか、入るぞ」

えりかはパソコンの前に座っていた。近くに包丁が落ちていた。使った形跡は無いようだ。

「、、、どうしてついてきたのよ」
「心配だからに決まってるだろ」
「あっそう」

確かにすごく心配はしたが、ここまであからさまに邪険に扱われると少し怒りが湧いてきた。えりかには鬱とはまた別の何かが現れていた。酷く攻撃的だった。

「さっきのは一体何だったんだ?ほんとに心配したんだぞ」

「うるせえ!どうせあんたも私とセックスしたいだけなんだろ!?さっさと死ね!!」


訳が、ワカラナイ、、、


「本当の本当に心配したんだよ、、、」
そう俺が言うとえりかはまるで何も聴こえていないように、この場に誰もいないかのように、布団に向かい、そして眠った


一体何なんだこりゃあよ、、、


本当に訳が分からなかった。そして俺は板の間で寝た。
隣で寝るなんてとてもじゃないが無理だった。

好きな人との5年間~心の病をもつ風俗嬢~(12)

しばらく二人っきりでえりかに会う機会は無くなってしまったけれどもサークル仲間の5人では今まで通り会っていた。

先輩の追いコンと俺達1年生が主役となる1年ライブが始まるから忙しくなる。

追いコンは4年生が二日がかりでサークルの皆とライブをし、1年ライブは県内の大学がそれぞれ1年生で編成されたバンドで代表をつくってライブを行うというものだ。

追いコンに参加する1年生は俺だけだったので気合いもはいった。

周りの1年生は追いコンの後に1年ライブがあるという事でまだゆとりを持って練習していた。



そしてこの頃になると、えりかは自傷行為をはじめるようになっていった。

リストカットだった。


なぜえりかがリストカットをしている事実を知ったのか、今では覚えてはいない。

ただ覚えているのはえりかのあのトロりとした目だけだ。こぼれそうなあの目を。



そして追いコンの直前頃になると、俺達は再び会うようになる。


止められなかった。お互いに。



俺は自分から距離を置こうと言ったくせに、もう自分の気持ちを抑えられなかった。
前とは違って、明確に彼女に「好き」と伝えるようになっていた

でもえりかからは毎回「ごめんね」と帰ってくるだけだった。

それでも俺達は会っていた。夜に頻繁に。
一体なんなんだろう。

そしてあの娘の手首には、前会った時には無かった傷が付いている。そして俺達の関係も前とは変わっていっている

ある日俺はえりかを飲みに誘った。ハッキリと自分からえりかを誘ったのははじめてだった。

市街地にさそった。
追いコンの前日だった。
2人でホテルにとまった。
寝た。
追いコン一日目の朝に起きた。
笑顔で1度別れた
ライブハウスで再開した
もうただの友達だった
俺達は何でもないんだ。
何でもないんだ。



この投稿を続けるのは俺にとって物凄く体力と神経をすり減らす作業になってしまっていました。

だからお休みも頂く時があるかも知れません

正直だんだんココロの疲労が物凄くて、文章をまとめるのが大変になってきたので、今日はここまでにさせて頂きます

でも少なくてもいいから、誰かの心の中に俺の何かを預かってて欲しいと言う我儘ではじめたこの回想。どうかもう少し続けさせてください

好きな人との5年間~心の病をもつ風俗嬢~(11)

「おはよう」
俺はえりかをおこした。はじめてみた一面なんだけど、えりかは寝起きが悪かった。なかなか起きなかった。しばらくしてやっとこさ起きた。

「うーん、、、おはよう」
「腹減ってる?」
「うん、少し」
「雑炊作ろっか?」
「え?食べたい食べたい!」

俺は台所にむかった。えりかとの夜が明けて台所で朝飯をつくる。ここだけをみればどう見ても付き合っている関係なんだけど、俺達はまだ友達なんだ。すこしお互いの距離が曖昧になっていき、そして今測りなおしている。そんな所だった。

「浅井さんには言えないな」
「むしろ誰にも言えないよ」
「ほんとだね」

朝飯を食べた後、もう一回愛し合った



「じゃあ、またね」
「うん、またね」

俺はアパートの階段を降りていった。
上ではいつまでもニコニコしながら、えりかが手を降っていた。

それからというもの、俺達は先輩の目を盗んで頻繁に会うようになっていった。えりかと先輩の仲は最悪の様だった。でも、正直俺はそれを言い訳にしていた。
きっと最悪なんだろう。俺は。

そしてえりかは浅井さんと別れた。
でも別にそれで俺達の仲が進展するってことは無かった。


むしろぎこちなくなっていった。


俺はえりかとの距離が急に狭まり訳わかんなくなってたし (もちろん嬉しかったけど) 、えりかは障害や風俗という秘密を打ち明けた上に浅井さんと別れた。しかもお互い身体の関係を持ったのもあって、お互いの距離の変化についていけずにいた。


「イヌオ最近なんか変だよ?」

コーヒーを俺の為にいれてくれながら、えりかが呟いた。

「、、、そうか?」

会話までそこで途切れた。
俺達がしていることって何なんだろう?
何かえりかに会うことがただの娯楽になっている様な、、、。


こころは手探りで、すれ違いはじめて、、、。
身体の距離が0になるほど、こころが離れていく、、、。


決意した。


ある晩、俺はえりかに自宅から電話をかけた。
「もしもしえりか?」
「もしもし、どうしたの」
「あのな、俺伝えたいことがあって、、、」
「うん、なあに?」
「実は俺達、、、距離を置いた方がいいと思ったんだ、、、。」

えりかは黙って聞いていた

「何か俺、ここ最近変じゃ無かったかな?」
「うん、、、。なんか頑張り過ぎて空回りしてる感じだった。」
「そうなんだ、俺確かに無理してた。お前とこんな事になって距離も分かんないし、カッコつけてたし。
正直に言うけど、えりかも空回りしてるし。
ひょっとしてえりかは、秘密を打ち明けたことの特別感とか緊張とか身体の関係持ったことへの感情を "好き" と勘違いしてるのかなって、、、。俺がえりかの事が大好きなのは自分の気持ちだからハッキリしてるんだけど、、、。」
「イヌオが言うのなら、そうなのかもしれない、、、。実はわたしもとまどってるの」
「だからこのままじゃお互い傷つけ合う事になってしまうし、俺の自己満足の恋愛で終わってしまう。」

「だから、、、?」
「だから、この曖昧な関係は、終らせよう」
「、、、うん」
「でも、いつでも助けるから、何があっても力になるから。友達だから」
「うん、約束だよ」


自己満足で終わらせたくない。それが本音だった。自分が愛されてないと考えながら恋愛したりセックスするのが怖かった。

俺はあれだけ好きだったえりかから、自分から離れていった

ベランダに出て煙草を吸った。暦の上ではもう春になっていた。

だけどはじめてえりかにあった時のような暖かい春まではまだ遠く、ベランダは寒かった。ただ、寒かった。