イヌオ~ヒトニヤサシク~

映画、音楽、酒、そしてヒトを愛する駆け出しバーテンダーが徒然なるままに趣味と幸せを考察する。

好きな人との5年間~心の病をもつ風俗嬢~(15)

俺はゴミをかき分けてえりかの側に行った
えりかはウンウン唸ってた

「えりか?大丈夫?」
「うぅ、ごめんねイヌオ」
「誰も助けてくれなかったのかよ」
「うん、あんの野郎ども私が唸って寝てる間も普通に飲み会してやがった。ご馳走様とか言って片付けもせずに帰りやがってぇ」
「どうしようもねぇなそりゃ」

部屋は祭りの後って感じだった

「熱は?」
「今はかる、、、」

ピッ
39℃あった

「キツイね」
「うん、ごめんね呼び出して」
「いいよ、来たいから来たんだ」
「ほんと?」
「うん」
「でもインフルエンザかもしれないよ?今流行ってるじゃない」
「お前のインフルならうつされても良いよ」
「なによそれ」


取り敢えず店で買った冷えピタとポカリを渡して俺は部屋の片付けをはじめた

「いいんだよ、そこまでしなくても」
「黙って寝てな」

台所が狭いから片付けに手間取った。1時間ほどかかった。その間にえりかは眠ってしまった。その方がいい。

くたびれた俺は片付けが終わるなり一緒のベッドで眠った


起きた時には昼近かった。
ベッドがいやに広い。隣にえりかがいなかった。そしてテーブルに手紙が置いてあった


昨日は本当に有難う。病院に行ってきます。ゆっくりしててね。


ガチャン
えりかが帰ってきた。


「ただ今」

変な感じだ。女の子に「ただ今」って言われるのは

「おかえり。起こしてくれたら一緒に行ったのに」
「いいの、病気になっちゃったのは私だし」
「で?どうだった?大丈夫?」
「気管支炎って言われた。普通に養生すれば治るって」
「そっか、よかったな。そろそろ昼だしなんか食うか?」
「お雑炊が食べたいの」
「また?」
「また」


いつかの時のように俺は雑炊を作った。卵雑炊。なんの変わり種もない普通の雑炊。でも特別な雑炊。


「イヌオのお雑炊本当に美味しい」
「本当に?」
「うん、すっごく」


えりかは咳が止まらなかったが、食べ終わったあとも夜まで起きていた。眠りたく無いようだった。熱が有るのに楽しそうだった。俺もそうだった。だけど夜も遅くなり、俺達は眠りについた。同じベッドで。


好きな人を看病出来る。他の誰でもなくこの俺が。


朝になった。快晴だった。横にはちゃんとえりかもいた。

「おはよう」
「おはよう、あれ?顔色いいな」
「うん、もう元気になったよ。イヌオのお陰だよ。有難う!」

内心寂しかった。もう少し看病したかった。馬鹿なことを考える。元気になるのが一番なのに、自分の為にえりかに治って欲しくないとおもうなんて。

結局半分は自分の為なんだろうか。こ難しいことを本人を前にして思う


「ねえイヌオ。もし良かったらお散歩行こうよ。
「え?うん、いいよ」



近くの細い道を通り、バス停を抜けて大学の側の通りに出る。
桜が満開だった。満開の桜の通りを2人で歩いた。
えりかの白い肌が桜色と混ざりあって、どこか儚げだった。でも、確かに2人で同じ道を歩いている。
俺が少し早足なぶんだけえりかに合わせて歩いた

もうすぐ三月も終わる、、、。
寒い春が終わる。暖かい春が来る。
何かが終わり、新しい何かが始まる。季節も人も、同じだった。
でも今だけは、今この時間だけはどうか終わらないで、、、。ずっとそう願っていた。


「なあえりか」
振り返って見るとえりかは10mは後ろにいた。そして桜の中の俺を夢中で写真を撮っていた。

「何やってんの?」
「へへへ、別にいいじゃん」

近くで昼食を済ませて次は河原を歩く。ガードレールを下をのけ反ってすり抜けようと馬鹿もやったし、まだ冷たい水の中に足をつけたりもした。
えりかは夢中でシャッターを切る。俺は恥しくて顔を背ける。


「綺麗だね」
「サクラ?」
「うん」


こういう時、1度でもかんがえるもんだろ?「お前の方が綺麗だよ」なんて臭いこと。
でも本当にあのえりかは、本当の本当に綺麗だった。


忘れない
あの日だけは