好きな人との5年間~心の病をもつ風俗嬢~(16)
楽しかった。あの散歩は本当に。たかが散歩なのに、忘れられない
あの時は確か打ち上げの件は敢えてお互いに何も言わなかったと思う。
でもえりかは俺を呼び出しはしたけど本当に申し訳無さそうではあったし、何よりとても楽しそうだったから俺ももうどうでも良くなっていた
四月になった。風はまだ涼しいけど陽の光は暖かく柔らかい。はじめて俺達が出会った季節がまた巡ってきた。時計の針が一周すれば鐘を打つように。
俺は例のようにえりかを食事に誘った。
えりかはいつものように気持ちよくOKしてくれた
場所はいつもの居酒屋だった
いつもの様に楽しく飲み食いしていた。食べるものもいつも通り。えりかは胸身の唐揚げが好きだった。
それをツマミにいつも通りにビールを飲む。
そう、すべていつも通り。時計の針は一周した所でいつも同じ音色の鐘を打つ。
でもえりかは、頬を赤らめていつもと違ってかしこまって口を開いた。
「ねぇイヌオ」
「ん?なに?」
「実は私からお願いが有ります」
「お願い?」
「うん」
「良いよ、言ってごらんよ」
「えへへ、あのね、実はお願いって3つあるの」
「えぇ、3つもかよ?」
いつもと違った。何かがはっきりと
「まず一つ目は、イヌオはこれからもギターを弾いて自分の目標である自分のバンドを作ってください」
「うん、もちろんだよ」
「二つ目は、どうかこれからも私の家のお皿を洗ってください」
これからも?
「そして三つ目は、私と、、、付き合って下さい」
思考が止まった。
ブレーカーが落ちた
あの時どんな顔をしてたんだろう。全く想像出来ない。多分間抜けな顔だったんだろうな
でもそんな間抜けな顔を、えりかはあの時のようにちょこんと正座をして手を膝の上に置いて、恥ずかしそうに笑いながらじっと見つめていた
言葉が詰まった俺はえりかをギュッと抱きしめようとした
けど跳ね除けられた
「もう!ここじゃダメだよ」
「ああ、あ、、、うん、ごめん」
「それで、、、どうなのかな、、、?」
迷いなんてあるはずない
「こちらこそ、これからもよろしく。えりか。」
その日はもちろんえりかの家に泊まった
俺はなんて幸せものなんだろう。こころの底からそう思った。本当にそう思った。えりかはもう俺が独り占め出来るんだ。
でも今思えば、これは長い戦いの始まりでもあったんだ。俺にとっても、そしてえりかにとっても、、、