好きな人との5年間~心の病をもつ風俗嬢~(10)
えりかはひとしきり泣いた後、落ち着きを取り戻してベッドで寝た。
俺はもちろんベッドには入らずコタツで寝た。どんなに仲が良くても流れがあっても、このタイミングでベッドに入ったら卑怯な気がした。
えりかは障害を持っている。
この事実で色々合点もいった。少し変わっているなという印象や学校に行かないこと、情緒不安定なところ
や周りとの協調が苦手なところ。
この娘はどんな人生を歩んできたんだろうか、、、
自分が何も知らないという事実が、ずっと首の後ろにまとわりついている。そんな感覚だった。重たかった。
目が覚めた。朝になっていた。いつもと違った。
冬の定演も終わり二月になっていた。
二月、、、。何かが終わりを迎える匂いがする季節。
俺は相変わらずギターを弾き、大学に行き、深夜のコンビニのバイトに行くという大学生らしい生活を送っていた。片思いの気持ちも大学生らしいものだろう。
テストの勉強にも追われていた俺は連休を貰ってた。
あれは21:00頃だっただろうか。
ブーッブーッ
携帯が鳴る。電話だった。
えりかからだ
この3日間、夜になると必ずえりかから電話がかかってきた。特に中身のない電話だったが毎晩長電話をした。
俺が自分からかける事は無かった。でも今晩も掛かってくるという確信があった。幸せだった。
「もしもしイヌオ」
「よお、こんなに連チャンで電話かけるなんて珍しいな」
「へへへ、別に良いじゃん」
「別に良いよ」
「何してたの?」
「テスト勉強。」
「ふーん、忙しいねえ」
「お前は?何かあったのかい?」
「べっつに。ねぇ、私達が仲良くなったキッカケ、覚えてる?」
実は夏の定演の練習期間にえりかと部室でたまたま会って2人きりで練習する機会があったのだが、えりかが猛暑と水分不足で熱中症になるという事件があった。
本人は大丈夫だと言い張ったけど、おんぶして近くの病院まで運んだ。
その事をえりかはずっと俺に感謝していた。
「イヌオがおんぶして病院に運んでくれたこと私ずっと覚えてるよ。」
「あー、そんな事もあったね。お前頑張り過ぎだもんな」
「イヌオ優しいもんね。なにか困ったことがあったらいつも手を貸してくれるし。飲み会の後とか練習の後とかいっつも2人乗りさせてくれるし」
「優しいか。そんぐらいで優しいかな?」
「優しいよ、イヌオがモテモテじゃ無いのが不思議だもん。まぁ、でも仕方ないよね。イヌオも私と同じぐらい変人だし」
「やかましいわ馬鹿」
「だってイヌオぶっきらぼうだし髪の毛ロン毛だし目つき悪いし女子は怖がってるか絡みにくいかどっちかだよ、フフフ」
「笑うなよ」
「でもね、私イヌオの顔好きだよ。中身も好きだよ。イヌオの自転車の後ろに乗せて貰うのも大好きだよ、、、。」
「、、、」
「、、、」
「俺も、、、お前を、後ろに乗せるの、、、大好きだよ」
「本当?」
「うん」
「ねぇイヌオ」
「なに?」
「あのね」
「うん」
「ふふふ」
「なんだよ、早く言えって」
「私の家で勉強して!」
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免許を取ってなかった俺は自転車で向かった。えりかの家は自転車で40分かかる距離にある。
ガチャン
「今晩はイヌオ」
「よおえりか」
えりかは風呂あがりだった。でもノーメイクでは無かった。薄化粧が可愛らしかった。
「どうせお前のことだから酒ばっかで食ってないんだろ。ほら」
コンビニで買ったサンドイッチを彼女にあげた。
「え?ありがとう。そんな事気にしなくて良いのに」
「飲んでるの?」
「これだけ」
テーブルの上にコンビニの唐揚げと一緒に缶ビールが1本だけ置いてあった。
なぜかえりかは、ちょこんと正座をしていた。ずっと下を向いていた。微笑みをその可愛らしい顔に浮かべて。
お互いの心臓の鼓動が聴こえてきそうだった
「なあ」
「なあに?」
「電話で言ってた事、本当?」
「ほんとだよ」
「好きってことも」
「ほんとだよ」
「俺も、、、」
「なあに」
「俺も、お前のことが大好きだよ」
「本当に?」
「うん」
「イヌオ、私寝たくないよ。イヌオと浮気するまで私寝ない」
「うん」
2人でベッドに入った。2人には少し狭すぎた。
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朝になった。散らかった部屋に朝日が射し込んで部屋の中が真っ白になっていた。
そして隣には、真っ白なえりかが眠っていた。