イヌオ~ヒトニヤサシク~

映画、音楽、酒、そしてヒトを愛する駆け出しバーテンダーが徒然なるままに趣味と幸せを考察する。

好きな人との5年間~心の病をもつ風俗嬢~(11)

「おはよう」
俺はえりかをおこした。はじめてみた一面なんだけど、えりかは寝起きが悪かった。なかなか起きなかった。しばらくしてやっとこさ起きた。

「うーん、、、おはよう」
「腹減ってる?」
「うん、少し」
「雑炊作ろっか?」
「え?食べたい食べたい!」

俺は台所にむかった。えりかとの夜が明けて台所で朝飯をつくる。ここだけをみればどう見ても付き合っている関係なんだけど、俺達はまだ友達なんだ。すこしお互いの距離が曖昧になっていき、そして今測りなおしている。そんな所だった。

「浅井さんには言えないな」
「むしろ誰にも言えないよ」
「ほんとだね」

朝飯を食べた後、もう一回愛し合った



「じゃあ、またね」
「うん、またね」

俺はアパートの階段を降りていった。
上ではいつまでもニコニコしながら、えりかが手を降っていた。

それからというもの、俺達は先輩の目を盗んで頻繁に会うようになっていった。えりかと先輩の仲は最悪の様だった。でも、正直俺はそれを言い訳にしていた。
きっと最悪なんだろう。俺は。

そしてえりかは浅井さんと別れた。
でも別にそれで俺達の仲が進展するってことは無かった。


むしろぎこちなくなっていった。


俺はえりかとの距離が急に狭まり訳わかんなくなってたし (もちろん嬉しかったけど) 、えりかは障害や風俗という秘密を打ち明けた上に浅井さんと別れた。しかもお互い身体の関係を持ったのもあって、お互いの距離の変化についていけずにいた。


「イヌオ最近なんか変だよ?」

コーヒーを俺の為にいれてくれながら、えりかが呟いた。

「、、、そうか?」

会話までそこで途切れた。
俺達がしていることって何なんだろう?
何かえりかに会うことがただの娯楽になっている様な、、、。


こころは手探りで、すれ違いはじめて、、、。
身体の距離が0になるほど、こころが離れていく、、、。


決意した。


ある晩、俺はえりかに自宅から電話をかけた。
「もしもしえりか?」
「もしもし、どうしたの」
「あのな、俺伝えたいことがあって、、、」
「うん、なあに?」
「実は俺達、、、距離を置いた方がいいと思ったんだ、、、。」

えりかは黙って聞いていた

「何か俺、ここ最近変じゃ無かったかな?」
「うん、、、。なんか頑張り過ぎて空回りしてる感じだった。」
「そうなんだ、俺確かに無理してた。お前とこんな事になって距離も分かんないし、カッコつけてたし。
正直に言うけど、えりかも空回りしてるし。
ひょっとしてえりかは、秘密を打ち明けたことの特別感とか緊張とか身体の関係持ったことへの感情を "好き" と勘違いしてるのかなって、、、。俺がえりかの事が大好きなのは自分の気持ちだからハッキリしてるんだけど、、、。」
「イヌオが言うのなら、そうなのかもしれない、、、。実はわたしもとまどってるの」
「だからこのままじゃお互い傷つけ合う事になってしまうし、俺の自己満足の恋愛で終わってしまう。」

「だから、、、?」
「だから、この曖昧な関係は、終らせよう」
「、、、うん」
「でも、いつでも助けるから、何があっても力になるから。友達だから」
「うん、約束だよ」


自己満足で終わらせたくない。それが本音だった。自分が愛されてないと考えながら恋愛したりセックスするのが怖かった。

俺はあれだけ好きだったえりかから、自分から離れていった

ベランダに出て煙草を吸った。暦の上ではもう春になっていた。

だけどはじめてえりかにあった時のような暖かい春まではまだ遠く、ベランダは寒かった。ただ、寒かった。