好きな人との5年間~心の病をもつ風俗嬢~(3)
えりかは言ってみれば、変人だった。
あれだけ可愛くて性格が明るければ女の子とキャピキャピしているもんだろうけど、講義と昼飯以外は男友達と一緒にいることが多かった。
同じサークル、学部の男友達を団体で自分の家に誘い鍋をやったり酒を飲んだり。2日に1回はどんちゃん騒ぎ。
買出しだってクラスメイトの男子の自転車に二人乗りでスーパーまで買出しに行く。(男子にとってもそれが娯楽の一つのように見えた。)
で、吐くまで飲む。
あの娘は飲まれるタイプだった。決して強くはなかった。ただの呑んべぇだった。
音楽の趣味はゴリゴリしたものが好きなようであり、担当楽器はドラム。そしてそのドラムが上手いこと上手いこと。しかも在籍していた先輩達のドラムとは違うタイプのドラムであったこともあって、即戦力どころじゃない。あのこの立場はリーサル・ウェポンだった。
ここまで書けばただ大学入ったばっかりでハメを外していただけさ。そんなもんで終わるだろう。飲み会が楽しいのなんか当たり前だし、趣味も千差万別だろう。
だけど、えりかは本当に学校に来なかった。ホントのホントに来なかった。不登校と何ら変わりなかった。
でもサークルでは一緒に活動をしていた。サークルには真面目に来てたのだ。サークルの新歓に来ていた100人から俺達も含めて最終的に8人だけのこった。演奏できる人間は5~6人。そのうちの4人がたまたま集まった。
これはえりかをアパートから無理矢理引っ張り出して部会に行く途中だった。
「この4人で定演にエントリーしようぜ」
俺が言った。何でだろう。多分楽しかったからだろうか。この4人でいられるのが。
話はすぐにまとまった。定演のオーディションに絶対に合格しようぜ!4人で約束した。
そしてその4人で練習をはじめる。夏だった。俺がギターでえりかがドラムそれとギターがあと1人とベースが1人の4ピースバンドのカバー。
周りはみんな先輩。不利なことは分かってる。でも絶対合格するぞと約束しあった。
意外と技術がいるバンドのカバーであり、かなり根詰めて練習した。
難しい。みんなが意見を出し合う。こうしよう、あーしよう。みんなの顔がだんだん必死になっていく。そしてみんなの疲れがピークに近づいた時ーーー
バァンッ!
みんなビクッとして振り返る。えりかの方を。
えりかがスティックを投げ飛ばしたのだ。
「私こんなの無理だよおおおお!くっそおお!帰るぅぅ!」
泣いていた。えりかが泣いていた。悔し涙だった。と言うよりもヒステリーに近かった。なんか普通の感じじゃ無かった。我慢をすることを知らない人の泣き方。こんな派手に声を張り上げてなく女の子なんか赤ん坊以外みたことない。
不器用な男しかその場にいなかった。派手になく女の子の対処なんて知らない男しかいなかった。
そして、俺がえりかにタオルをあげた。涙を拭くタオルをあげた。
嗚咽を漏らしながらえりかは涙をふいていた。
その時俺はえりかを慰めていると言うよりもあやしているという感覚だった。