イヌオ~ヒトニヤサシク~

映画、音楽、酒、そしてヒトを愛する駆け出しバーテンダーが徒然なるままに趣味と幸せを考察する。

好きな人との5年間~心の病をもつ風俗嬢~(4)

えりかは落ち着きを取り戻した。涙も止まった。練習時間も終わりに差し掛かっていたし俺達は練習を切り上げた。バツが悪かったのもあっただろう、えりかはすぐに家に帰った。
その後皆にえりかからメールの一斉送信が来た。内容は大体こんな感じだった。

今日は急に取り乱してごめんなさい。私この手のドラム初めてだったし体力もないから途中でだんだん悔しくなっちゃって。私頑張るからもし良かったら次の練習もよろしくお願いします。

もちろんみんな快諾したし、えりかにドラムを叩いて欲しかった。皆えりかに励ましのメールを送った。

よくよく考えればえりかに体力が無いのもうなずけた。背も平均より高いはずだけど、本人曰く体重はその時40kgを下回っていた。入学時よりも明らかに痩せていた。真夏の練習というのもあって体力が持たないのは無理はない。
でも皆体重の事なんかそんなに気にしていなかった。
気になっていたのは痩せた理由そのものだった。

えりかには彼氏がいた。故郷である隣県の彼氏と遠距離恋愛。最近別れたという。それで食欲が0になり何も食べなくても平気になっていたという。
未練タラタラなのは目に見えていた。
だから最近無理して彼氏を作っていた。好きでは無いらしかった。手をつないでもいないしましてやキスもし無いらしい。悔しがらせたかったのだろうか。

俺は内心ヤキモチを焼いていた。別に何の関係もないのに、ただのトモダチなのに、勝手にヤキモチを焼いていた。そう、そのころにはえりかの事が本気で好きになっていた。
でも俺の心臓は納豆に付いてくる辛子よりもちっぽけなノミの心臓だったし諦めもついていたしで、気持ちは心の引き出しにしまい込んだままだった。本当にノミの心臓だった。そしてなにより、照れ屋だからだった。

いいじゃないかこのままで。こんな可愛い娘と一緒の空気吸えるだけで満足じゃないか。

それが俺の気持ちだった。

善戦はしたけどオーディションは落ちた。やっぱり一年生じゃ個々の技術云々ではなく"バンド"というものでは先輩には適わなかった。

でもこのひと夏のおかげでえりかとの距離が縮まっていった。会話も増えたしふざけあった。夏の間にも色々あったのだけれど、少し早送りして話は秋にうつる。