好きな人との5年間~心の病をもつ風俗嬢~(6)
近くの居酒屋に2人で入った。
カウンターしか空いてなかったからそこに2人で座ることに。
酒が入れば、さっきの定食屋よりも話が弾む。色々なことをお互い話せたし、何よりも無理することなく自然と会話が盛り上がった。話のツボもペースもピッタリだった。
「ねぇイヌオ、目が悪いの?」
当時俺は眼鏡を掛けていた
「とった方がいいよ、ちょっと取ってみ?」
「えぇ?恥ずかしいけど、ほらよ」
「あ、絶対そっちがいいよ!コンタクトにしなよ!」
浮かれた俺はその次の月からコンタクトにする。それ以来今でもずっとコンタクトだ。お調子者なのだ。
「今日は楽しかったね」
「あぁ、また飲もうよ」
「帰りどうするの?」
「うーん、この時間だから自転車しかねーかな」
(当時は自転車は飲酒運転に該当しなかった)
「ねぇねぇ」
「ん?」
「今晩2人で部室に忍び込もうよ」
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深夜の部室は当然誰もいなかった。こんな事がバレたら学校側から大目玉を喰らう。馬鹿は俺達しかいなかった。
でも楽しかったから、この時間を終わらせたくなかったから、2人でこっそりバレないように窓の死角に隠れて一晩泊まった。酔もあって、ドキドキはそれほど無かった。
やっぱりこの娘は貞操観念がズレているのだろうか?もちろんズレてはいるんだけど、、、
それに居酒屋の会話の中で、故郷の彼氏と寄りを戻したことも聞かされていた。聞きたくはなかった。
嬉しさの割には2人ともすぐに眠りに落ちた。
文化祭自体は楽しいもので終わった。音楽漬けの秋が終わった。サークルの幹部の代替わりも終わり、また新しい何かが、幸も不幸も含めて始まろうとしていた。
外はもう薄着では歩けなくなっていた。
雪の降らない俺達の街。
それでも寒さを感じるには充分過ぎた。
えりかにとっても俺にとっても忘れられない冬。
えりかは彼氏と別れた。それを知ったのは文化祭の後になってからだった。
あの子の何かが、小さな音をたててはじけた。
俺もあの娘の生み出す小さな渦に絡めとられて行くことになる。そしてそれはどんどん大きくなっていった。