イヌオ~ヒトニヤサシク~

映画、音楽、酒、そしてヒトを愛する駆け出しバーテンダーが徒然なるままに趣味と幸せを考察する。

好きな人との5年間~心の病をもつ風俗嬢~(8)

えりかが風俗をはじめた。
あのえりかが。変わり者だけど明るくて元気で優しいえりかが。俺の好きなえりかが、、、。

彼女は別に俺のものでも無い。でもこうしてる間に関係も無い、初めて会うような男と寝ているえりかを想像すると、口の中がすっぱくなった。

お洒落が好きなえりかは風俗で稼いだ金で買った服を着て飲み歩いている。自慢げに語る。悲しい目をしながら。
今なら分かるけど自分を傷つけたい気持ちと、金が手に入る喜びのふたつの思いが彼女の中に同居していた。



あの娘はきっとパルコにでも行って
今ごろは茶髪と眠っているだろう
ワンダーランドはこの世界じゃ無いってことを知っているから



頭の中でこんな歌が延々と繰り返された
いつの間にか12月になっていた。19の俺達にとってサンタクロースは死んでいた。

俺はサークルの忘年会に来ていた。現役と極小数のOB。
そのOBの中の1人の先輩が俺に話しかけてきた。
院に進みながらも音楽の趣味が合うということで俺の事を可愛がってくれた浅井先輩(仮)

「よおイヌオ!元気か?」
「あ、先輩!うっす!」
「ちょっといいか?」

二次会に移動するということで店の外に出た時だった

「あのな」
辺りを気にし始めた
「俺な、えりかちゃんに告白するつもりなんだけどいいか?」

浅井先輩は以前飲み会でえりかと遊んでからずっと好きだったという。(女性経験がお世辞にも多くないからすぐ好きになってしょうがないが)

だけど、何で俺にいちいち許可を得ようとするんだ?
俺とえりかが仲がいいから?
俺がえりかの事が好きなのを気付いているから?
釘を刺したかったから?

、、、。

「え?何ですって?」
「えりかちゃんだよ。俺あの子が好きになったんだ。告白しようと思ってる」

「いいじゃないですか!応援しますよ!」

馬鹿だ。自分の気持ちを殺した。自分の気持ちよりも他の人の気持ちを天秤にかけた。

先輩と争いたくなかった。
俺が1人我慢すればひょっとしたら2人で落ち着くかも知れないと思った。
でも何よりも、好きだという気持ちを、俺はえりかに伝えることが出来なかった。
この人は俺が出来なかった事をしようとしている。

俺は身を引くことを決意した。

「OK貰ったら連絡下さいよ!」
「おう。、良かったァ、俺お前がえりかちゃんのこと好きなんじゃないかって心配だったんだよ。」

気付いているくせに
いちいちそんなこと言うんじゃねえよ

二次会の酒の味は覚えていない。

しばらくして、えりかが浅井先輩にオーケーを出したという事を先輩から直接聞かされた。