イヌオ~ヒトニヤサシク~

映画、音楽、酒、そしてヒトを愛する駆け出しバーテンダーが徒然なるままに趣味と幸せを考察する。

小休止

えりかちゃんの昔話はちょこっと休憩しますぞ

何事もインターバルは必要なものだからね。正直こんなに時間が掛かるものとは思わなかったし。(だって最初の十ヶ月で十投稿目だぜ、、、)

えー、休憩なんでゆるりとやりたいんですけど投稿する事に違いは無いのでどうしたものかと。

そこで閃いたんですけど、最近直接もしくはTwitterでバーや酒に関する質問をされるのがとても多いのでそれをまとめてみようかなと思いました。


逆に言えば皆バーや酒に興味がある。あっても踏み出せないっていう人が多いのかなーって。


この勝手なコーナーを見て頂いて少しでもバーに興味をもってもらったら嬉しいかぎりです。


それではLet's go!!


Q. バーって緊張する
A. だよね。気持ちはわかります。最初は俺もそうでした。でもその緊張をといてお客さんにくつろいで貰うのが俺達の仕事だから。遠慮なんかしないでどんどんくつろいで下さい。


Q.酒の名前とか知らないんだけど、、、
A.大丈夫知らなくて(笑)この仕事しない限りはどうでも良いんだよねホント。
酒の名前が分からないときは安心して俺達に聞いてください。ぴったりなものをお出ししますぜ。そのために俺達がいるのです。


Q.若い人が来たら浮く?
A.というよりも若い人にガンガン来て欲しいのです。祭りと一緒で若者がいないと刺激が無いでしょ?


Q.スケベそうですね
A.スケベです


Q.バーテンダーってモテるでしょ?
A.男にも女にもモテる努力をしないと出来ない仕事ですね。実はこれって凄く大事な事。


Q.好きなカクテルは?
A.好きなカクテルはトムコリンズ、ニューヨーク、ギムレットサイドカーグラスホッパー
ぜひお楽しみ下さい


Q.バーって高いの?どれぐらいお金いる?
A.店とによりけりだけど軽く飲むなら3000円くらいで満足出来るような店がベストだと思います。(都市部か地方かにもよります。)
店によってチャームとかチャージが有るからね。乱暴に説明してしまえば
○チャージ=場所代
○チャーム=お通し代
みたいな感じかな。俺の店はとりません。


Q.自分たちで飲みに出ることはある?
A.たくさんありますよ。若い同業者同士の飲み会は言わば戦争です。3:00~10:30まで呑んだのが最長記録です。気が付いたらソープ街のド真ん中でガリガリ君の棒咥えながらあぐらかいて寝てました。


Q.
どんなバーがおすすめ?
A.人それぞれだから難しい、、、。ただ酒の事だけしか頭に無いバーはつまんない。これは本当。プラスアルファがあるマスターさんに俺は魅力を感じます。


Q. ウィスキーの一番美味しい飲み方は?
A. あなたが美味しいと思う飲み方が一番美味しい飲み方です。
例えば酒が強くない人に「これがうめえんだよ!」っていってストレートで飲ませて悪酔いさせちゃったら思い出も含めて不味いものになっちゃうでしょ?
はっきり言っちゃえば美味けりゃ何でも良いのです。


Q. 女の子をバーで落としたことある?
A. 無理でした!


Q. この仕事好き?どこが好き?
A. 大好き♡毎日違うお客さんが来て色々な面白い話が聞けるのが楽しみでしょうがないです。そして何より酒飲みながら堂々と仕事出来る(笑)


こんなもんでしょうか。この質問コーナーで皆さん少しでもバーに親しみを持って頂いて貰えたらうれしい限りです。
特に俺と同年代の20代前半にパワフルに遊んで貰えたらとてもいい刺激になると思うのです。

確かに酒を飲むなら1本200円の缶ビールで済みますよね。なんでわざわざ1杯800円とか1000円するバーで飲むのを選ぶ人がいるんだろうか。でもそれだけの付加価値をその人が見出しているだけなのであって、俺達もその付加価値を与えられる様に毎日頑張ってます。


さあ、今日もどんなお客さんが来られるか、楽しみですね

好きな人との5年間~心の病をもつ風俗嬢~(10)

えりかはひとしきり泣いた後、落ち着きを取り戻してベッドで寝た。
俺はもちろんベッドには入らずコタツで寝た。どんなに仲が良くても流れがあっても、このタイミングでベッドに入ったら卑怯な気がした。

えりかは障害を持っている。

この事実で色々合点もいった。少し変わっているなという印象や学校に行かないこと、情緒不安定なところ
や周りとの協調が苦手なところ。


この娘はどんな人生を歩んできたんだろうか、、、


自分が何も知らないという事実が、ずっと首の後ろにまとわりついている。そんな感覚だった。重たかった。


目が覚めた。朝になっていた。いつもと違った。
冬の定演も終わり二月になっていた。


二月、、、。何かが終わりを迎える匂いがする季節。


俺は相変わらずギターを弾き、大学に行き、深夜のコンビニのバイトに行くという大学生らしい生活を送っていた。片思いの気持ちも大学生らしいものだろう。
テストの勉強にも追われていた俺は連休を貰ってた。

あれは21:00頃だっただろうか。
ブーッブーッ
携帯が鳴る。電話だった。

えりかからだ
この3日間、夜になると必ずえりかから電話がかかってきた。特に中身のない電話だったが毎晩長電話をした。
俺が自分からかける事は無かった。でも今晩も掛かってくるという確信があった。幸せだった。

「もしもしイヌオ」
「よお、こんなに連チャンで電話かけるなんて珍しいな」
「へへへ、別に良いじゃん」
「別に良いよ」
「何してたの?」
「テスト勉強。」
「ふーん、忙しいねえ」
「お前は?何かあったのかい?」
「べっつに。ねぇ、私達が仲良くなったキッカケ、覚えてる?」

実は夏の定演の練習期間にえりかと部室でたまたま会って2人きりで練習する機会があったのだが、えりかが猛暑と水分不足で熱中症になるという事件があった。
本人は大丈夫だと言い張ったけど、おんぶして近くの病院まで運んだ。
その事をえりかはずっと俺に感謝していた。

「イヌオがおんぶして病院に運んでくれたこと私ずっと覚えてるよ。」
「あー、そんな事もあったね。お前頑張り過ぎだもんな」
「イヌオ優しいもんね。なにか困ったことがあったらいつも手を貸してくれるし。飲み会の後とか練習の後とかいっつも2人乗りさせてくれるし」
「優しいか。そんぐらいで優しいかな?」
「優しいよ、イヌオがモテモテじゃ無いのが不思議だもん。まぁ、でも仕方ないよね。イヌオも私と同じぐらい変人だし」
「やかましいわ馬鹿」
「だってイヌオぶっきらぼうだし髪の毛ロン毛だし目つき悪いし女子は怖がってるか絡みにくいかどっちかだよ、フフフ」
「笑うなよ」
「でもね、私イヌオの顔好きだよ。中身も好きだよ。イヌオの自転車の後ろに乗せて貰うのも大好きだよ、、、。」
「、、、」
「、、、」
「俺も、、、お前を、後ろに乗せるの、、、大好きだよ」
「本当?」
「うん」
「ねぇイヌオ」
「なに?」
「あのね」
「うん」
「ふふふ」
「なんだよ、早く言えって」
「私の家で勉強して!」



免許を取ってなかった俺は自転車で向かった。えりかの家は自転車で40分かかる距離にある。

ガチャン

「今晩はイヌオ」
「よおえりか」

えりかは風呂あがりだった。でもノーメイクでは無かった。薄化粧が可愛らしかった。

「どうせお前のことだから酒ばっかで食ってないんだろ。ほら」

コンビニで買ったサンドイッチを彼女にあげた。

「え?ありがとう。そんな事気にしなくて良いのに」
「飲んでるの?」
「これだけ」

テーブルの上にコンビニの唐揚げと一緒に缶ビールが1本だけ置いてあった。

なぜかえりかは、ちょこんと正座をしていた。ずっと下を向いていた。微笑みをその可愛らしい顔に浮かべて。

お互いの心臓の鼓動が聴こえてきそうだった

「なあ」
「なあに?」
「電話で言ってた事、本当?」
「ほんとだよ」
「好きってことも」
「ほんとだよ」
「俺も、、、」
「なあに」
「俺も、お前のことが大好きだよ」
「本当に?」
「うん」
「イヌオ、私寝たくないよ。イヌオと浮気するまで私寝ない」
「うん」
2人でベッドに入った。2人には少し狭すぎた。



朝になった。散らかった部屋に朝日が射し込んで部屋の中が真っ白になっていた。
そして隣には、真っ白なえりかが眠っていた。

好きな人との5年間~心の病をもつ風俗嬢~(9)

えりかは先輩にOKを出した。
サークルの中でちょっとしたニュースになった

マジかよ
よりによってアイツとかよ
無理だろ
無理だろなー
なんでOKしたんだ?
さあな

周りの声なんか俺には聞こえてなかった。
それよりも、俺は自分の気持ちを伝えられなかったという後悔だけに捕らえられていた。浅井先輩にもえりかにも。


冬の定演がもうすぐ始まる。


部室でいつも通り練習をする。2年生の先輩と一緒だった。
冬は日が落ちるのが早い。5時にはもう当たりは真っ暗で、いつもならその辺にいる野良猫達もどこかに身を隠していた。
きっと寒いから身を寄せあっているんだろうか。人間とは違って彼等は素直に寒い、暑い、好き、嫌いを伝えられる。言葉なんか使わずに。

羨ましい。

練習も終わって、当時まだ免許を持っていない俺はいつも通り自転車で学校を出た。
そしてなんとなく、えりかのアパートの前を通った。こんな事をしてもなんの意味も無いんだけど、通りたくなった。

すると

ガチャンッ

俺がえりかのアパートの前を横切ろうとした時えりかが家から出てきた。目が合った。

「イヌオじゃん、どうしたのこんな所で。まーた素通り使用としたな?何してるの?」

まさか遭遇するとは思わなかった俺は内心焦っていた

「いや、、、別に、ただ、そこのスーパーでビールでも買って帰ろうかなって思って通ったんだよ」
「ふーん、そっか。どうせ飲むなら今日一緒に飲もうぜ。うちにおいでよ。泊まってけ。」
「はあ!?でも浅井さんいるだろ?」
「別にいーのいーの。今日はあの人いないし。買出し行こうよ。」



「カンパーイ」
「やっぱりビールよね」
「うん、なあ本当にいいのか?浅井さん怒るだろ?」
「イヌオなら何も言わないよ。あの人イヌオのこと好きだし。それにアタシ今日は一緒に飲みたかったし。」

一緒に飲みたいと言われて悪い気はしない。でも彼女が選んだのは浅井さんなのだ。それが現実だ。

「なぁ、えりか」
「何?」
「なんで浅井さんにOKしたの?」
「んー、ぶっちゃけ退屈だったから。誰でも良かったの。それにまだ、寝てもいないし。」
「それだけ?」
「そう、それだけ」
「酷いなそりゃ」
「自分でも最低だと思ってるよ」
「浅井さんは風俗のこと知ってるの?」
「知ってるよ。知ってて付き合ってるの。それに私今不安定なの」

えりかはほろ酔いだった。

「ねぇイヌオ。私って変だよね。周りの娘とズレてるよね」
「え?まぁ、、、ぶっちゃけ変わってはいると思うけど、個性的ってことで良いんじゃないかな?俺は気にしてなんかいないし」
「そっか」
「うん」
「あのね、私、発達障害なんだよ、、、」

えりかは泣きだした。

発達障害。先天性の脳機能障害。難しい話はここでは書けないが、えりかに現れる症状は。
○人との協調が苦手
○相手の表情を読み取るのが不得意(まったく出来ないわけではない)
○計算や数学が極端に出来ない
○善悪の判断をせずに衝動的に行動をする
○周りの環境によって極端に緊張してしまう
○物事に執着や強迫観念をもつ
などだった

えりかはこれらの症状のせいで、小さい頃から周りの子にいじめられて不登校を繰り返してきたらしい。
そして大学でも、人との強調が苦手なことや講義中で大勢の人間に囲まれている環境が物凄く緊張するものだった事から、次第に不登校になっていった。
大学に行きたくても行けなくなったという。そのストレスや失恋のショックがキッカケで風俗を始めたらしい。

俺は頭が真っ白になった。何も考えられなかった。頭を叩き割られて中身が全部こぼれてしまった様だった。

ハッタツショウガイ?エリカガショウガイシャ?

こんなに可愛いえりかが、人気者で明るくて優しいえりかが発達障害
まったく想像していなかった。ルックスだけでこの娘は恵まれた人生を送っていたと勝手に決めつけていた。
俺は何も知らなかった。恥ずかしかった。

そして目の前には一通り話し終えて泣き続けるえりか。何も言葉をかけられなかった。俺は本当に無知だった。かける言葉を知らないし学ぶこともなかった。
本当に無力だった。
言葉が無いのなら?
言葉を知らないのなら?
あの猫達みたいに、あの猫達みたいに、、、

俺は黙ってえりかを抱きしめた。

えりかは泣き続ける。抱きしめたらいっそう酷く泣き始めた。もっと強く抱いた。

「うぅぅ、ひっぐ。もう、イヌオお。私以外にもこんな事したらモテモテなのにぃ。ひっぐ」
「あっそう」

ほかの娘には興味が無い。と喉まで来たけど、飲み込んだ。
俺はダメなんだ。何がダメって言っていいのか、、、。でも、ダメなんだ。

好きな人との5年間~心の病をもつ風俗嬢~(8)

えりかが風俗をはじめた。
あのえりかが。変わり者だけど明るくて元気で優しいえりかが。俺の好きなえりかが、、、。

彼女は別に俺のものでも無い。でもこうしてる間に関係も無い、初めて会うような男と寝ているえりかを想像すると、口の中がすっぱくなった。

お洒落が好きなえりかは風俗で稼いだ金で買った服を着て飲み歩いている。自慢げに語る。悲しい目をしながら。
今なら分かるけど自分を傷つけたい気持ちと、金が手に入る喜びのふたつの思いが彼女の中に同居していた。



あの娘はきっとパルコにでも行って
今ごろは茶髪と眠っているだろう
ワンダーランドはこの世界じゃ無いってことを知っているから



頭の中でこんな歌が延々と繰り返された
いつの間にか12月になっていた。19の俺達にとってサンタクロースは死んでいた。

俺はサークルの忘年会に来ていた。現役と極小数のOB。
そのOBの中の1人の先輩が俺に話しかけてきた。
院に進みながらも音楽の趣味が合うということで俺の事を可愛がってくれた浅井先輩(仮)

「よおイヌオ!元気か?」
「あ、先輩!うっす!」
「ちょっといいか?」

二次会に移動するということで店の外に出た時だった

「あのな」
辺りを気にし始めた
「俺な、えりかちゃんに告白するつもりなんだけどいいか?」

浅井先輩は以前飲み会でえりかと遊んでからずっと好きだったという。(女性経験がお世辞にも多くないからすぐ好きになってしょうがないが)

だけど、何で俺にいちいち許可を得ようとするんだ?
俺とえりかが仲がいいから?
俺がえりかの事が好きなのを気付いているから?
釘を刺したかったから?

、、、。

「え?何ですって?」
「えりかちゃんだよ。俺あの子が好きになったんだ。告白しようと思ってる」

「いいじゃないですか!応援しますよ!」

馬鹿だ。自分の気持ちを殺した。自分の気持ちよりも他の人の気持ちを天秤にかけた。

先輩と争いたくなかった。
俺が1人我慢すればひょっとしたら2人で落ち着くかも知れないと思った。
でも何よりも、好きだという気持ちを、俺はえりかに伝えることが出来なかった。
この人は俺が出来なかった事をしようとしている。

俺は身を引くことを決意した。

「OK貰ったら連絡下さいよ!」
「おう。、良かったァ、俺お前がえりかちゃんのこと好きなんじゃないかって心配だったんだよ。」

気付いているくせに
いちいちそんなこと言うんじゃねえよ

二次会の酒の味は覚えていない。

しばらくして、えりかが浅井先輩にオーケーを出したという事を先輩から直接聞かされた。

好きな人との5年間~心の病をもつ風俗嬢~(7)

ある日の事、えりかのアパートの近くで俺はえりかに遭遇した。偶然だった。

「よおえりか」
「イヌオじゃんかよ、えりかちゃんのアパートを素通りとはどういう事だ」
「用も特にねーんだから当たり前だろ」
「まぁいーや、今日飲もうよ」
「まじ?OK。この間の所でいいかい?」
「いいよ!いいけど私カテキョのバイトが有るから、1時間ぐらい待っててくれる?この近所だからさ」

えりかは家庭教師のバイトをしていた。英語を教えている。不適当な派手なカッコしていたが。
(周りの男子は「俺も色々教えて欲しいな畜生!」と盛り上がったりしていた。気持ちはわかる。非常にわかる。)

1時間ほど部室でギターを弾いたり先輩と馬鹿話をして時間を潰した。

普段は時間に対して壊滅的にルーズなえりかがそこまで待たせることなく待ち合わせた居酒屋に着いた。
俺は本当に幸せだった。例えどんな事があっても、このひとときだけはこの娘を俺が独り占め出来る。それが幸せでたまらなかった。本音は隠せてもテンションの昂りだけは隠しきれていなかった。
それにえりかはその当時誰よりも俺と2人で飲むことが多かった。

うんやっぱりイヌオはメガネない方がいいね。
次何が食べたい?何がすきなの?
その服どこでかったの?
寒くなったね
やっぱビールが一番うめえな

こんなどこでも耳にする会話。誰にも大切にされること無く明日には忘れ去られるであろう会話が俺達2人を繋いでた。でも、、、

「ねぇイヌオ」
「なんだ?」
「あのね」
「なに?」
「私、バイト始めたんだ」

直感か、表情を見て悟ることが出来たのか、それともこの短い付き合いの中で得たあの娘のデータを分析して結論を導き出せたのか、、、。俺はなんとなくこの娘の始めたバイトが想像ついた。想像したくなかった。

「カテキョとは別に?」
「うん」
「人に言えないような?」
「うん」

「風俗とか?」
「、、、うん」

えりかは少し前からデリヘルで働き始めていた。失恋のショックと日々のストレスかららしい。日々のストレスがどんなものか、しばらくしてから俺は知ることになる。

風俗。去年まで高校生だった俺には知ることの無かった世界。ドラマや映画でしか知らなかった世界。それが今、目の前に事実として存在している。しかも目の前にいるそれは間違いなく、えりかだった。

「私のこと軽蔑する?嫌いになる?」
えりかの目は軽蔑されても仕方がないとでもいうような目でこっちを見ていた。そしてどことなくナルシシズムを感じさせた。
そしてなんとなく、、、泣き出しそうだった。

「嫌いになんかならないよ」

その後は色々、俺は色々小難しい話をした。そんなんじゃ嫌いにならないとか、でも頼むから辞めて欲しいとか、いつでも相談してくれとか、俺はお前の味方だとか。

でも、話す言葉の全てが、ガキだった。シャバを知らない糞ガキのただのもがきだった。
今なら素直にそう思う。でもその時の俺はそれが限界だった。

結局えりかは辞める意思が無いことが分かった。
俺は強引になれなかった。やっぱり糞ガキだ。味方だなんて誰にだって言えるのに、味方程度なら誰にだってなる事が出来るのに。

その日はその話をお互いに避けはじめ、そして飲み直した。

いつも通りに、、、。

好きな人との5年間~心の病をもつ風俗嬢~(6)

近くの居酒屋に2人で入った。
カウンターしか空いてなかったからそこに2人で座ることに。

酒が入れば、さっきの定食屋よりも話が弾む。色々なことをお互い話せたし、何よりも無理することなく自然と会話が盛り上がった。話のツボもペースもピッタリだった。

「ねぇイヌオ、目が悪いの?」
当時俺は眼鏡を掛けていた
「とった方がいいよ、ちょっと取ってみ?」
「えぇ?恥ずかしいけど、ほらよ」
「あ、絶対そっちがいいよ!コンタクトにしなよ!」

浮かれた俺はその次の月からコンタクトにする。それ以来今でもずっとコンタクトだ。お調子者なのだ。

「今日は楽しかったね」
「あぁ、また飲もうよ」
「帰りどうするの?」
「うーん、この時間だから自転車しかねーかな」
(当時は自転車は飲酒運転に該当しなかった)

「ねぇねぇ」
「ん?」
「今晩2人で部室に忍び込もうよ」



深夜の部室は当然誰もいなかった。こんな事がバレたら学校側から大目玉を喰らう。馬鹿は俺達しかいなかった。
でも楽しかったから、この時間を終わらせたくなかったから、2人でこっそりバレないように窓の死角に隠れて一晩泊まった。酔もあって、ドキドキはそれほど無かった。
やっぱりこの娘は貞操観念がズレているのだろうか?もちろんズレてはいるんだけど、、、
それに居酒屋の会話の中で、故郷の彼氏と寄りを戻したことも聞かされていた。聞きたくはなかった。

嬉しさの割には2人ともすぐに眠りに落ちた。

文化祭自体は楽しいもので終わった。音楽漬けの秋が終わった。サークルの幹部の代替わりも終わり、また新しい何かが、幸も不幸も含めて始まろうとしていた。

外はもう薄着では歩けなくなっていた。
雪の降らない俺達の街。
それでも寒さを感じるには充分過ぎた。

えりかにとっても俺にとっても忘れられない冬。

えりかは彼氏と別れた。それを知ったのは文化祭の後になってからだった。

あの子の何かが、小さな音をたててはじけた。

俺もあの娘の生み出す小さな渦に絡めとられて行くことになる。そしてそれはどんどん大きくなっていった。

好きな人との5年間~心の病をもつ風俗嬢~(5)

話を十月ぐらいまで早送りしよう。

えりかと俺は入学時に比べてぐっと仲良しになっていた。もちろんサークルの一年生の固定メンバーと同じポジションでだけれども。
十月の俺の誕生日なんか、えりかの発案で俺に誕生日ケーキを5人で準備してくれたぐらいだった。それぐらい仲が良かった。(メチャクチャうかれた。浮かれに浮かれた。)

そして十月になれば文化祭の準備が始まる。
文化祭、それは俺達軽音サークルにとって1番過酷で楽しいシーズンの到来だった。
文化祭のある2日間教室を一つ占拠して50を超えるバンドが演奏して、最後は部室で主にパンクやガレージなんかの筋肉質なバンドを聞きながら23:00まで暴れまくる。まさに体力の限界に挑むロックンロールマラソンだった。1人で5~10のバンドのコピーをするのなんか当たり前だった。(文化祭の後は3日間は誰も音楽を聴かなくなる。本当に。)

俺達はまだ一年生ということもあって少し遠慮勝ちにエントリーをした。俺は3つだった。えりかは確か2つだったと思う。そのうちの一つは同じバンドだった。そして自然と顔を合わせることが多くなる。

同じ学科なのにえりかとは授業でまったく顔を合わせない。会うのはサークルと飲み会ぐらいだった。
えりかに会うのは幸せだった。顔を合わせればお決まりのやり取りをとった。

「よお馬鹿イヌオ」
「なんだよクソ女」

でもそれが一番楽しかった。他の人には分からない幸せの時だった。

ある日のこと、俺達はたまたま2人だけで部室の前で会った。そしていつもの "挨拶" を済ませて2人だけで部室に入った(ドラマーは練習場所が限られるからスタメンに限り部室の鍵が無条件で貰えた)。2人だけで練習をしようと合うことになった。

俺が音を出す。馬鹿でかい音を出す。いつも通りでかい音を出す。軽く弾き流す。するとえりかが小さな声で語りかけてきた。

「イヌオって凄いよね。ギターも弾けて音楽も私より全然詳しくて。私、イヌオの音大好きなんだよ。」

へ?

唐突過ぎてよく分からなかった。
でもあんな馬鹿でかい音の中でもはっきりなんて言ったか聴こえてきた。相変わらずいいことばかり拾う耳である。
褒められてる?俺が?えりかから?
、、、俺ニヤけてないかな?嬉しくて、、、ニヤけてないかな?

「お前だってすげぇじゃん、ドラム(ニヤケ我慢必死)」
「そうかな?」
「なぁ」
「ん?」

「腹減ったろ?晩飯行こうよ」

と言ったと同時に、恥ずかしさから後悔に似た感情に襲われた。

(誘っちまったよ、、、俺がえりかを2人きりで晩飯誘っちまったよ、、、。2人っきりは流石に嫌がるだろ)

恥ずかしさがケツから脳天まで走ったのと同時に、えりかが答えた。

「ほんとに?行きたい行きたい!どこにする!?」

、、、内心ガッツポーズをとった。まじで?こんなに喜んでくれるの?

そして2人で近所の定食屋に入った。年相応に、お洒落な飲み屋とかじゃなくてどこにでもある定食屋だ。
あの日食ったものは俺は忘れない。タルタルチキンだったはずだ。

2人で飯食った後も他にお客さんがいなかったから居座って色々話した。
今思えばお店に迷惑だったんだろうな。でもお互いすっごく会話してて楽しかったし、俺は俺で帰りたくなかった。ほんとに帰りたくなかった。この時間が続くなら何人前でもタルタルチキン平らげて一緒の時間を稼ぎたかった。

「ねえイヌオ、今日暇?」
「暇っちゃ暇だね、練習も終わったし」
「これから私と2人で飲みに行こうぜ」

、、、へ?
心の声が、これだった。ほんとに「へ?」だった。
でも俺って照れ屋なクセに見栄っ張りだから、ニヤケを必死こいて我慢しながら

「おう行こうぜ!今日は潰れんなよ。」
「はぁ?えりか様をなめんなよ!」

こんな流れではじめてふたりで飲みに行くことになる。
俺は浮かれまくっていた。今思い出すだけで恥ずかしいぜ、、、。